今後、世界の人たちは「仕事がある場所」よりも、「生活の楽しさがある場所」に集まっていく。<田村 穂>-コラム Serendipity-Vol.44

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ハウスコム社主催で11月に行われた「不動産テック これからの不動産を考える 2017 in TOKYO」において会場のみなさまを震え上がらせていたのが、現在、日本大学スポーツ科学部教授とマサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員を兼務されている清水千弘先生のお話でした。

「私の話を聞くと暗くなるといつも言われるんですよね」という清水先生。実際にお話の前半では、「AIが割り出した、高齢化が進む不動産市場の『下落』と『暴落』」という、耳を塞ぎたくなるようなワードだらけの未来図が語られました。「想像してはいたけどそこまでとは…」とショックを受けた関係者様も多かったのではないかと思います。

お話の中で清水先生は次のように述べました。

「人口が減っていくというインパクトは見えづらいのですが、じわりじわりと、ゆっくりだけれど凄く大きなエネルギーで日本経済というものを壊していきます」

「また高齢化していくということは、それ以上のエネルギーを持って、日本経済どころか社会そのものを壊していってしまう。このようにAIを使って学習させていくと、行き着く答えは『地価の暴落』になってしまう」

以上をまとめると、「『これからの日本には住宅の価格を押し下げるようなエネルギーしかない』というのが過去のデータから得られる答えなのだ」ということです。 

しかしながら、AIの導き出す答えは、あくまでも「過去のデータ」に基づいているのだということを忘れてはいけません。
つまりAIプログラム上は、過去の構造が未来永劫続くことが前提とされているわけですが、実生活上では過去に存在しなかったことがある日突然、世の中の常識になる…なんてこともありうるわけです。

例えば、今となっては私たちのビジネスにも欠かせない存在となったSNS。わずか10年前には、これほどまでに人々の日常生活に入り込むなんて誰にもわからなかったことです。また、かつてはテレビ局から提供されて受動的に消費するだけだった「動画」というコンテンツも、YouTubeの登場により、今や一般消費者が自分で作って共有することが普通の世の中になりました。

日本の高齢化社会を見ても同じです。もともと「65歳以上を高齢者とする」と定義された1960年当時、男性の平均寿命は65歳。つまり、「寿命より長く生きている人」が当時の「高齢者」の定義だったわけですね。

しかしこの50年で平均寿命は15年延びました。60代、70代でもボランティアに、友達付き合いに、と忙しくしておられる方は多くなっているわけですから、当然、社会は何をもって“高齢者”と定義するのか…これまでの常識を壊さなければならない時期に来ています。

また、世界の都市が多民族社会によって続々と成長を遂げつつある中で、東京もいつまでも“純血主義”を通し続けてはいられません。能力のある外国人を呼び込んでいけば、労働人口の高齢化を踏みとどめる一手になりうるかもしれませんからね。

以上のように、「AIによって予測されたことが実世界で本当に起こるのか」というと答えは「NO」と言えるのであり、この点清水先生も次のようにおっしゃっていました。

「過去のデータから考えれば日本の地価は3分の1になってしまう。ですが、実は少しの意識の変化によって、または我々の生活の変化によって、全然違う価値が生まれて来るんじゃないかなと思っています」

「たとえば『高齢化とは何か』というと、『家にいる時間が長くなること』を含みます。すると今まで『家とは寝に帰る空間』だったのが、『長く過ごす空間』になります。我々の家計から、家に対して払いたいというお金が増えてくるはずです。そのような設計がうまくできてくれば、家の価格っていうのは、それほど暴落することはないんじゃないかなというのが私自身、今考えていることです」

人が都市に集まる第一の理由は「産業がある」ことですが、次点としては、「いい感じのバーや劇場などの文化、そして自然といった“アメニティ”が充実している」ことだとわかってきているのだそうです。

清水先生が以前研究のために住んでいたというカナダのバンクーバーもアメニティが充実している都市であり、経済活動の水準でいえばロンドンの10分の1以下くらいしかないものの、ニューヨークや香港など「お金の稼げる都市」にいた人たちが次に住む都市として人気があるのだといいます。

世の中の動きとして、住まいを決める時、「仕事があるかどうか」ではなく、「生活の楽しみがあるかどうか」ということの価値が高まっていることがわかりますね。

「何が人を幸せにするか」の調査では、「住まい」が人の幸せに貢献する度合いは25%にも及ぶことがわかっています。これからもっと高まっていく可能性があるとして、清水先生は次のように述べました。

「僕らは美味しいものを食べるとか、服を着てあたたかいとか、そういうことで幸せを感じるわけですけれども、住宅に対しては借りてる人も買ってる人も、25%の幸せのためにお金を払い続けています」

「この25%っていうのをどういうふうに高めていくっていうのかを原点に置き、もう一回ビジネスモデルにしていくことによって、家の価格も下がっていかないし、生き残る大家さん、または投資家さん、または業者さんっていうのも出て来るのではないかと思います」

住宅ローンの査定が10分で出来るようになってきている世の中、物件が生き残れないだけではなく、不動産業者としての私たちも、AIに言わせれば「いらない未来」ととされています。

ただこれも、私たちが査定や集客など、「これまでと同じ仕事をただずっと続けていればそうなるかもしれない」という話であって、従来のあり方から変わることができれば、その未来も変わるわけですよね。

例えば今、大阪あたりの空き家に苦しんでいるエリアがあります。その中でも、週末限定でオープンするカフェとか、ちょっとおしゃれな雑貨屋を誘致して人を集めるとか、そういった面白い取り組みをしている地域があります。これは、大家さん、不動産業者、地域住民が一緒になって「生き残る方法」を模索した過程・結果なのだそうです。

清水先生も次のような言葉で、今回のお話を締めくくっていました。

「シンガポールは25年間すごく発展してきました。しかし次の25年生き残ることができるのかっていう議論の末、シンガポールの出した結論っていうのは『Yes, No, and Maybe』だったのです」

「うまく成長を続けることができるかもしれない、ダメかもしれない、しかし、今この瞬間にどんな選択をするかによってYESにもなるしNOにもなる。25%の幸せに貢献する仕事をする方々にとって、ぜひイエスになるような行動をしていただけるといいなと思っています」

今回「不動産テック これからの不動産を考える 2017 in TOKYO」では、普段なかなかお目にかかれない家主様、お世話になっている不動産・住まいの関連企業様、最新のテクノロジーに興味がある若い方々、そして、今後の日本の不動産業に期待してくださる一般の方々など、総勢3000名が一堂に会しました。

ただひたすら社内でPC上の数字とだけ向き合っているのを止めて、例えば今回のイベントのように、住まいの幸せに関わる方々とアイデアや感動を共有する機会をもっともっと増やしていけば、私たちの業務は「不動産業」ではなく「人の幸せを増やす事業」として、自ずと未来に発展していくことができるのではないでしょうか。

最後に「遠くない未来」のお話をしましょう。

私たちがいわゆる“不動産業”というものを変えたのちに集まったデータを基に、「私たちは生き残れるかどうか」と、もう一度清水先生のAIに聞いたら…
今度こそ、‘YES’に近い結論を見ることができるはずです。

ハウスコム株式会社
代表取締役社長:田村 穂

<プロフィール>
経営修士(MBA)中央大学大学院戦略経営研究科修了(榊原清則ゼミ)。中央大学商学部客員講師。大学在学中に宅建主任者の資格を取得。その後、不動産業界での経験を経て、1994年に同社入社。営業スタッフから1年で店長に抜擢される。常務取締役営業本部長を経て、2014年3月に社長に就任。賃貸仲介業から賃貸サービス業への変革を進め、人工知能などのITテクノロジーを活用したユーザー向けサービス・プラットフォーム「マイボックス」をリリース。自社のビッグデータを活用し、オープンサービス・イノベーションラボを展開。社会・地域に貢献できる不動産テック企業を目指す。

 

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