学生のアイデアがどれだけ欠点の多いものであっても、その起業家精神には、必ず敬意を払わなければなりません。<田村 穂>-コラム Business Contest

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ハウスコム社が主催するビジネスコンテスト「不動産テックを活用した部屋探しの新しいカタチ」の予選会が11月15日、ハウスコム本社で行われ、「お金はないけれど、時間とやる気は人一倍ある」学生たちが一ヶ月の準備期間を経て、自らのビジネス・アイデアを披露するためにハウスコム本社に戻ってきました。

今日は私もハウスコムの代表取締役という役職をちょっと横に置いて、学生に戻ったようなピュアな気持ちでアイデアを聞きたいと最初に挨拶をさせていただき、本日予選を通過した2チームが11月26日(日)に渋谷のセルリアンタワーで行われる「不動産テック これからの不動産を考える 2017 in TOKYO」の中で、決勝戦を行うことになります。

かのフェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグは「大人よりも、若者の意見の方が絶対的に正しい」と述べていましたが、私たちのようにある程度の規模の企業になってくると、あまりにも社内承認のプロセスが多すぎて、現場や新入社員の新鮮な意見は私や経営陣の耳に入ってくる前に社内のどこかで却下されて、かき消されてしまうことも多いのではないでしょうか。

私は常々、若者を見る時は「結果や成果」よりも「変化」を見逃さないようにと心がけております。そして、私が新しいビジネスプランを経営発表会などで発表して、周りから色々と指摘された経験から、学生たちが提案するアイデアがどれだけ欠点が多いものであっても、その企業家精神に対して敬意を払わなくてはならないと思うようになりました。

それでは、それぞれ1チームずつのビジネスアイデアの提案を見ていきましょう。

チーム「Queen」

最初のチーム「Queen」の「ご老人と若者の一体型シェアハウス」提案は、お年寄りの孤独や孤独死と、若者の金銭事情や社会勉強の必要性を住まいを通じて解決できる良いアイディアだなと感じました。

そもそも私たちが子供の頃は、お年寄り、大人、そして子供と異なった年齢の人々が一つ屋根の下に住むのが当たり前で、私たちぐらいの世代の方々は、そういった世代が異なる人たちと一緒に暮らすことで、お互いに様々なことを学んだものですが、時代が進めば進むほど、都心になればばるほど、もしくは、テクノロジーが進めば進むほど、異なった世代が触れ合う機会というのはどんどん少なくなってきているんですね。

現在、老人、若者、女性、そして外国人など◯◯に特化したシェアハウスというものは結構たくさんあるのですが、これをテクノロジーの力を使って、すべて一緒にしたところは非常にセンスが良いと思います。

そして、私が「Queen」の提案で一番興味深いと思った点は、若者がシェアハウスに安く泊まれたり、住めたりする代わりに週一回ブログを更新してシェアハウス自体が一つのメディアになろうとしている点で、まずはこのような全く新しいコンセプトのシェアハウスがあるということを地方の若者や老人ホームに住んでいる人たちに知ってもらうことが大切なんですね。

ただ一つ気になる点としては、リクルート住まい研究所の宗健所長と日本大学の清水千弘先生からもご指摘があったように全く面識のない異なった世代の人たちが急に同じ空間で住むということは想像以上に難しいことなんです。

この部分をクリアできれば、ビジネスとしても、非常に面白いものになるのではないでしょうか。

チーム「スターフィールド」

解散前の漫才コンビのようなリズムのあるテンポでプレゼンをしてくれた「スターフィールド」は、まさにいま私たちがやろうとしている、新しい部屋を決めるにあたって、できるだけ多くの情報を徹底的に「見える化」することでお客様の満足度を上げるというアイデアを提案してくれました。

インターネットやSNSの普及によって賃貸や地域に関する情報はかなり増えましたが、住む前と住んだ後のギャップは未だに大きく、もっともっと様々な情報を「見える化」していくことで、暮らしの質を上げていくことは可能でしょうし、まだまだそこには大きなビジネスチャンスが隠れているのではないかと思います。

また、清水先生からもご指摘があったようにひと昔はオーナーさんの力がすごく強くて、何かあればオーナーさんが住人を追い出す力を持っていたわけですが、現在は少しずつ家が余り始めていますから、住む人の力の方がかなり強くなりつつあります。

物件も街も気に入ったんだけど、オーナーさんと上手くいかないことが原因で、出ていくということは意外と多いものなのです。

そういった意味で、今後は消費者の力が強くなっていくでしょうから、アマゾンのレビューのようにオーナーさんのレビューもインターネット上で見られるようになるかもしれませんし、これは「少しでも長く住んでもらうにはどうしたらいいか」ということを常に考えているオーナーさんにとっても、自分たちの信用をしっかりと見える化することで様々な面でプラスになっていくことでしょう。

ただ、宗所長からご指摘があったように、どんな所でも「住めば都」という言葉があるように自分に確実にあった物件を見つけるのもいいですが、偶然に身を任せて、もっと住まいを探すプロセス自体を楽しむという概念も大切ではないかと思います。

チーム「ウルトラソウル」

「あいいく」という住まいの教育環境に重点を置いてアイデアを提案してくれたのは、チーム「ウルトラソウル」でした。

最近では大学なんかを中退して起業するサクセスストーリーをよく耳にしたりしますが、ハーバード大学を中退したマーク・ザッカーバーグにしても、ビル・ゲイツにしても、ものすごく教育熱心な両親に最高の学習環境で育てられたからこそ、あれほどまでに大きく成功できたと言えるのかもしれません。

引っ越しをする時の最も大きな理由は結婚、もしくは子育てだというデータがありますから、チーム「ウルトラソウル」が提案する「住んでから考える子供の未来ではなく、子供の未来を想定した上での住まい選択」は、今後ものすごく需要があるサービスではないかと思います。

清水先生が仰ったように海外では、それぞれの学校のレビューはもちろんのこと、校長先生のレビューまであるのだと言いますから、子供の教育環境を主軸として住まいを選択するということは世界共通の概念であり、目のつけどころは非常に鋭いように感じました。

一点気になるところがあるとすれば、宗所長がご指摘されたように本当に価値のある情報はWebに上げたとたん、すべての情報が盗まれてしまう可能性がありますので、ビジネス化をするためには具体的にどうしたらいいのかというところまで掘り下げられるとハウスコム社ですぐに実用化できる気がしています。

チーム「のど飴」

2050年には世界の人口の3分の2が都市に住むと予測されている中で、不動産と地方移住のメリットを上手く組み合わせて提案してくれたのがチーム「のど飴」でした。

日本の様々な地域が地方移住のメリットを伝えて、人々を勧誘していますが、あまり上手くいっていない現実があるのは、宗所長がご指摘された通り、移住先に仕事がないというのが圧倒的な理由で、中には奥さんが嫌がるということも大きな原因のようです。

そういった意味で、地方移住を成功させるためには、不動産と地方自治体がコラボするだけではなく、人材派遣会社や様々なエンターテイメント産業と提携して移住した人たちがずっとアクティブにいられるための環境を整えなければなりません。

チーム「のど飴」が指摘してくれたように、今後人間の寿命は確実に延びていきますから、様々な節目節目で今までとは全く違う、地方で暮らしてみようと考える人も確実に増えてくるでしょう。

私たちが何か特別なことをしなくても、人々のライフスタイルは時代が進むにつれて確実に変化していきます。2030年を迎える頃には、私たちのビジネスモデルも賃貸仲介業とは全く違うものになっているかもしれませんが、これからは賃貸というハードを提供するだけではなく、住まいを通じた幸福度の追求というソフトにも焦点を当てて、事業を考えていく必要があるということでしょう。

チーム「em-factory」

そして、最後に引っ越しをする必要がなくても、SNS感覚で物件情報を見ることができれば、もっともっと部屋探しをエンターテイメント化することができるのではないかという視点からアイデアを提案してくれたのがチーム「em-factory」です。

もう、アメリカなどでは、若者はWebで「検索」すらしないと言われていますね。手放せないほどの中毒性を持つスマホで彼らが日々何をしているかと言えば、フェイスブックやツイッター、そしてインスタグラムなどのSNSの中で、ただ面白いコンテンツを消費しているだけなんです。

住まいや地域に関する付加価値の高い情報や正直な感想を一番多く持っているのは、私たちのような企業ではなく、実際にその場所に住んでいる一般の人たちであることは間違いありませんし、ユーザーからの評価が何よりも力を持つ時代には、そのユーザーが持っている価値の高い情報をWebで上手く可視化して、誰でもアクセスできるようにしてあげることで、部屋探しに関するお客様の満足度をもっと上げることができるでしょう。

ただ、賃貸不動産でそれを行う上で、懸念されるポイントは宗所長からもご指摘があったように、アマゾンやじゃらんなどサービスと比べて賃貸物件の情報のフローがとても速く、物件が決まってしまうと、もうそれ以上、その物件に関する価値の高い情報の掲載しておくことができないため、情報の量と価値がモノを言うSNSビジネスとの相互性をどう取っていくのか考える必要があるのではないかと思いました。

結果発表

宗所長と清水先生とよく話し合った結果、住まい探しにおいての情報の見える化を提案してくれたチーム「スターフィールド」と教育環境に重点を置いた住まい探しを提案してくれたチーム「ウルトラソウル」に11月26日(日)に渋谷のセルリアンタワーで行われる決勝戦に進んでいただくことになりました。

おめでとうございます!!

チーム「スターフィールド」の提案は、条件検索だけではなく、地域や建物とのマッチングを性格や暮らし方から読み取るというコンセプトの実用性が高く、すぐにでも着手できて、何かしらの成果を上げることができるのではないかというのが宗所長、清水先生、そして私の3人の意見でした。

そして、チーム「ウルトラソウル」の提案は、実際、海外などを見てみても強力なニーズがあり、この「あいいく」というサービスだけではビジネスとして成立しないかもしれませんが、口コミで広がっていけば新しい顧客の集客やハウスコム自体のブランドイメージ向上につながるのではないかという視点で判断致しました。

学生みなさんの率直な意見を聞いてみて

当たり前のことかもしれませんが、私たちが学生の頃は、ビジコンなんてものは存在せず、ビジネスの「ビ」の字も知らない学生が、企業にビジネスアイデアを提案するなんてことは考えられない時代だったんです。

それはもちろん、日本の時代背景が大きく関係していたんだと思います。当時、順調に業績を上げていた日本経済には新しいアイデアやイノベーションというものはそれほど必要とされず、まだまだアメリカやヨーロッパの真似をしていれば上手くいっていた時代でしたし、仕事自体も目上の人に何かを提案するよりも、1日も早く先輩から仕事のやり方を盗んで、成果を上げることが求められる時代だったんですね。

私自身も若い頃は、新しいアイデアなんかを提案するよりも、目の前にある仕事をこなせばこなすほど、どんどん成果が上がっていったので、それだけでものすごく楽しかったように思います。

でも、現在は時代が大きく変わりました。バブルが弾けて「失われた20年」に突入し、リーマンショックがあって、震災を経験した現在の日本は、より新しく、より社会性があって、同時にしっかりとビジネス的に収益が上がる事業が世の中に求められている時代なのです。

よく、ゆとり世代の若者はさぼり世代などと言われたりしますが、私は決してそんなことはないと思います。

学生の皆さんはこうやって、しっかりと調査やプレゼンの準備をして、業界のことを知り尽くしている宗所長や清水先生まで「フムフム」と納得してしまうアイデアを提案する力を持っているのですから、学生の皆さんが普段感じている感性は間違いなく正しいものなのでしょう。

ただ、今の学生の方々は絶対的な自信がないのか、私たちが学生だった頃に比べて「どんどん新しいことを学ばせてください」、「これは私たちにいますぐやらせてください」という意欲や情熱が少し薄いように感じなくもありません。

若者の感性やセンスは間違いなく優れているのですから、私たちのような大人が可能な限り変化に気づいてあげることで、若者を応援し、会社というものを自分のアイデアを実現する「器」として捉えてもらうことで、企業もイノベーションのジレンマに陥ることなく、より新しく、より社会性があって、同時にしっかりと収益が上がる事業を永続的に生み出せるのではないでしょうか。

戦後の生き証人とも言われた田中角栄さんは、大蔵大臣に就任した日に「今日から、大臣室の扉は常に開けておくから、我と思わんものは誰でも訪ねてきてくれ。上司の許可はいらん。仕事は諸君が思うように、思いきってやってくれ。しかし、すべての責任はこの田中角栄が負う。以上」と言ったことは有名ですが、日本経済が衰退し始め、多くの若者が自信を失っている時代だからこそ、こういったリーダーの器が試される時なのかもしれません。

本日は色々と考えさせられる一日でした。

11月26日(日)に渋谷のセルリアンタワーで行われる決勝戦は3000人を超える人たちが会場に訪れます。

チーム「スターフィールド」とチーム「ウルトラソウル」にとっては自分の考えを世の中に伝えるまたとないチャンスですので、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグのように「大人よりも、若者の意見の方が絶対的に正しい」ということを、ぜひ世の中に伝えるぐらいの気持ちで当日に臨んでいただければ嬉しいです。

ハウスコム株式会社
代表取締役社長:田村 穂

<プロフィール>
経営修士(MBA)中央大学大学院戦略経営研究科修了(榊原清則ゼミ)。中央大学商学部客員講師。大学在学中に宅建主任者の資格を取得。その後、不動産業界での経験を経て、1994年に同社入社。営業スタッフから1年で店長に抜擢される。常務取締役営業本部長を経て、2014年3月に社長に就任。賃貸仲介業から賃貸サービス業への変革を進め、人工知能などのITテクノロジーを活用したユーザー向けサービス・プラットフォーム「マイボックス」をリリース。自社のビッグデータを活用し、オープンサービス・イノベーションラボを展開。社会・地域に貢献できる不動産テック企業を目指す。

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