スポーツを通して、ボスニア・ヘルツェゴビナの民族対立の歴史を変えたい。実現に向けて動き出したプロジェクト「マリモスト」。vol.2

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マリモスト(現地語で小さな橋)

民族紛争の爪痕が残るボスニア・ヘルツェゴビナで、子どもたちを対象にしたスポーツアカデミーを設立し、スポーツを通じて民族融和を進めることは可能か。元サッカー選手の宮本恒靖さんを中心に動き出したプロジェクト「マリモスト(現地語で小さな橋)」は、2016年10月に、紛争地モスタルでのスポーツアカデミー開校というスタート地点に立ちました。きっかけは、スポーツに関する組織論や法律について学ぶ修士課程・FIFAマスターの修士論文。5人のメンバーで作り上げた論文が、どう実現に向けて動き出したのか、宮本さんに話を聞きました。

「草の根文化無償資金協力」

修士論文の内容を新聞に取り上げてもらい、その小さな記事をきっかけに、プロジェクトの実現化へとつながっていきました。外務省とも相談し「草の根文化無償資金協力」(以下、草の根文化無償)というスキームを通じて動き出すことになったのです。草の根文化無償は、外務省による無償資金協力のひとつ。開発途上国の文化、高等教育振興のための施設や機材整備に関する支援です。このプロジェクトに関しては,モスタル市に対しアカデミーの活動場所ともなる既存のスポーツ施設改修への支援が考えられました。

一方、アカデミーとしてのプロジェクトを動かすためにきちんとした法人を立ち上げる必要がありました。そこで、私を発起人としてメンバーと一緒に特定非営利活動法人の設立準備を進め、2015年12月に「特定非営利活動法人Little Bridge」の認可を受け、具体的な組織運営が始まっていきます。プロジェクトリーダーとして、ボスニア・ヘルツェゴビナに初めて行ったのは2014年2月。街のいたるところに銃撃や砲撃の跡が残っていて、紛争終結から20年以上たってもまだまだ紛争の生々しさが残っています。

プロジェクトの活動場所となるモスタル市内の学校を見せてもらい驚いたのは、ボシュニャク(ムスリム)系、クロアチア系、セルビア系それぞれの民族の子どもたちが、同じ学校に通っているのに、それぞれの民族で別々の授業を受けていたことでした。使う言葉や、学ぶ歴史が違うからだそうで、JICAの支援で始まったパソコンを使ったIT教育の授業以外は、それぞれの教室に散らばっていきます。

子どもたちが民族間で対立をしているといった様子は表面上見えないものの、同じ空間で学ぶという、日本では当たり前だと思っていたことがボスニア・ヘルツェゴビナでは当たり前でないということを改めて実感しました。そして私たちが目指している同じボールを追いかけて異なる民族の子どもたちが一緒に汗を流す「マリモスト」の活動意義を改めて感じる場面でした。

「本当にできるかもしれない」

プロジェクトの活動として、まずは首都のサラエボにある日本大使館にあいさつに伺い、スポーツ省、サッカー協会、UNDP(国連開発計画)の現地事務所などと打ち合わせ。その後、アカデミーの活動の場所となる南部の街モスタルに移動して、市のスポーツ協会や現地のサッカークラブ、これは偏りが出ないように、現地にあるボシュニャク(ムスリム)系のサッカークラブ、クロアチア系のサッカークラブの両方に顔を出しました。

そしてモスタル市の学校関係者などとも打ち合わせを実施しました。私たちがプロジェクトを通じて何を実現したいかを説明しても、みんな一様にぴんとこない表情を浮かべます。「いいことをやろうとしているね」と言ってもらえても、具体的に、誰がどう進めるのか、考えるべきことは山積でした。

スポーツアカデミーをどこに設立するかの選定には時間がかかりました。モスタルの街は川を挟んでボシュニャク(ムスリム)系とクロアチア系の居住区が分かれています。どちらかの民族に偏りが出てしまう地域は候補地になりません。みんなが来やすくて、中立的な場所はどこか。色々な場所を視察した末に見つけたのが、街の中心部にある市役所の横の「SCカンタレバッツ」という場所でした。

ここは、市民の憩いの場として、年に数回コンサートなども開かれる小さな屋外型のアリーナがあり、この場所を使いたいと市長に交渉。街の中心部であり反対意見も出たようですが、我々が何度も現地に足を運ぶことで熱意が伝わり、2014年5月に「このプロジェクトには意義があると思うから、使ってくれ」と許諾を得ることができました。プロジェクトが、ようやく進んでいくように思えたのは、14年の9月ごろ。現地に何度も足を運ぶことで志を同じくする現地の仲間ができ、「本当にできるかもしれない」とかすかな希望の光が見え始めました。

取材協力:エートゥジェイ

<フリーライター>
取材・文:田中 瑠子

<プロフィール>
株式会社リクルートで広告営業を3年間経験。のち、幻冬舎グループで2年間の書籍編集を経て、フリーランスの編集・ライターに。東京ヤクルトスワローズのオフィシャルライターとして選手、監督インタビューを3年間行い、人物インタビューの経験を積む。同時に、実用書、ビジネス書、雑誌の執筆を幅広く手掛ける。

Little Bridge:活動を支える

サービス・イノベーション室:安達

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