ボスニア・ヘルツェゴビナにスポーツアカデミーを設立。民族対立の歴史に向き合う宮本恒靖氏の挑戦はいかに始まったのか。vol.1

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このプロジェクトを始めるきっかけは何だったのか?

民族紛争による分断の傷痕が根深く残るボスニア・ヘルツェゴビナ。この地で、スポーツを通じた民族融和を目指そうと、2016年10月にスポーツアカデミーが開校しました。プロジェクトリーダーは、元サッカー日本代表主将で、現在は指導者として活動している宮本恒靖さん。かつては対立した、ボシュニャク(ムスリム)系、クロアチア系、セルビア系の異なる民族の子どもたちが、分け隔てなく暮らしていくきっかけを作ることができたらいい。そんな思いから、プロジェクトは「マリモスト」(現地語で小さな橋)という名前となり、紛争地モスタルを拠点としたアカデミーの活動が始まっています。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は1992~95年の3年半以上にわたって繰り広げられた、第二次世界大戦後のヨーロッパで最悪と言われている紛争です。死者20万人、難民・避難民は200万人を超え、民族間で行われた殺戮(さつりく)によって、対立感情はまだまだ強く残っています。

私がこの問題を知ったきっかけは、2012年からチャレンジしたFIFAマスターでの修士論文プロジェクトでした。FIFAマスターとは、国際サッカー連盟(FIFA)が主宰するスポーツに関する組織論や法律について学ぶ修士課程のコースで、世界各国からさまざまなメンバーが集まっています。私は、プロのサッカー選手として17年間プレーしてきましたが、選手としての視点だけでなく、もっと多方面からスポーツを学びたいと思いFIFAマスターに挑戦しました。そこで出会った仲間たちもそれぞれに色々な経歴を持っていたのですが、スポーツビジネスに興味を持っているという共通点から共有できるものが多くありました。

修士論文は個人の課題でなく、グループワークとなるのですが、同じグループになった5人は、弁護士のポルトガル人、ホテル関係の仕事をしていたスイス人、マーケティング経験のあるスウェーデン人など。そのうち一人が、大学を出たばかりのボスニア・ヘルツェゴビナ出身の女性でした。興味関心や専門領域はバラバラでしたが、5人に共通していたのは、「スポーツを通じて、子どもたちに何かを伝えたい」という思い。ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のメンバーの話を聞くなかで、「民族が分断されてしまった地域で、子どもたちを対象にしたスポーツアカデミーを設立し、スポーツを通じて民族融和を進めることは可能か」というテーマに挑戦しようと、論文のゴールが固まっていきました。

「民族対立の歴史を乗り越えた子どもたちが、国を担っていく存在になってほしい」

修士論文は、5人それぞれの専門知識を生かしながら進められました。弁護士のメンバーは法律的な観点からの実現可能性、私は元サッカー選手、サッカー指導者という経験からアカデミーのプログラムについて意見を出していきました。FIFAマスターに進む前から、自分自身で運営しているフットサルパークで、子どもたちを対象としたサッカーアカデミーを開いていたので、サッカーを通じて子どもたちがどう変わっていくか、どう自信がついていくものか、実体験のエピソードも多く共有しました。

もともと、アカデミーの活動内容はスポーツ全般でしたが、ボスニア・ヘルツェゴビナでは特にサッカーが人気のスポーツということもあり、まずはサッカーで何ができるか、ということを中心に据えて考えていきました。「一つのボールを追いかけながら、ボシュニャク(ムスリム)系、クロアチア系、セルビア系の子どもたちみんなが笑顔になる時間を作ろう」「民族対立の歴史を乗り越えた子どもたちが、国を担っていく存在になってほしい」。そう話し合い、実現可能性を突き詰めた仮説として、修士論文を発表しました。

ただ、論文は、あくまでもフィジビリティスタディ(プロジェクトの実現可能性の調査)として制作したので、発表したときにはこのプロジェクトが数年後に現実のものになるとは誰も思っていませんでした。動き出したきっかけは、新聞に掲載された小さな記事。そこに、外務省やJICA(国際協力機構)、UNDP(国連開発計画)などが興味を示してくれ、プロジェクトが一気に動き出すことになったのです。

取材協力:エートゥジェイ

<フリーライター>
取材・文:田中 瑠子

<プロフィール>
株式会社リクルートで広告営業を3年間経験。のち、幻冬舎グループで2年間の書籍編集を経て、フリーランスの編集・ライターに。東京ヤクルトスワローズのオフィシャルライターとして選手、監督インタビューを3年間行い、人物インタビューの経験を積む。同時に、実用書、ビジネス書、雑誌の執筆を幅広く手掛ける。

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サービス・イノベーション室:安達

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